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2005.08.16

父の本棚

空き家になった実家の荷物整理をするつもりで帰った。妹が先回りしてすでに整理を始めている。持って行きたいと思うものはほとんどない。結局、ごろごろしていただけで整理らしいことは何もせず。

戦前からあるという洋食器などは今から手に入れることはできないが、私には不要。そのほか父や、妹が結婚して出て行くまでに買い集めたカップ類などは全部妹のところへ。
父の書籍類は古本屋を呼んで一括して買い上げてもらうことにしていた。そのつもりで本棚を眺めてみた。本は3カ所ほどに分散していた。全集をそろえるのが趣味だった。日本文学関係が目につく。夏目漱石、森鴎外、芥川龍之介、永井荷風、谷崎潤一郎、宮沢賢治、なんかは全巻ある。そのほかに世界文学全集みたいなのがいくつか。田中正造全集があって全巻そろっていた。井上ひさしなどはたぶん出た単行本は全部あるだろう。岩波の「講座 日本文学」なんていう全集も。
中学生の頃こっそり忍び込んで谷崎潤一郎の「鍵」や伊藤整訳の「チャタレイ夫人の恋人」なんて読んだ覚えがある。それらの本は家のどこかにあるのだろうが見つからなかった。
荷風全集を取り出して「断腸亭日乗」の昭和20年8月15日のところを読んでみる。「断腸亭日乗」はまあ今のブログの走りみたいなものである。前日、荷風先生は岡山近くに疎開していた谷崎潤一郎から牛肉が手に入ったので一緒に食おうというお誘いで谷崎の寄宿先に行ったらしい。帰りの汽車の切符をやたらと心配している。谷崎の奥さんが作ってくれたお弁当、竹の皮に包んだにぎりめし、昆布、漬け物、牛肉(たぶん昨夜の残り)を車中で食べたとある。あっさりとした記述なのになぜかうまそうである。当の「終戦」については「戦争を停止」とさらりと書いてあるだけである。
「人間として」という季刊誌の「高橋和巳追悼集」というのを見つける。71年発行。高橋和巳の「憂鬱なる党派」と「邪宗門」は高3の時に読んだ。そのころ高校の漢文の先生に武部利男先生がいた。武部先生は「バイキング」という同人誌で高橋和巳の先輩、気鋭の中国文学者だったそうだ。そんな偉い先生とはつゆ知らず、漢文の時間は居眠りか内職で過ごした。「ならぬ漢文、するが漢文」。武部先生の言葉で覚えているのはそれだけ。「高橋和巳追悼集」には武部先生も一文を寄稿しておられた。その後しばらくして武部先生も亡くなった。亡くなったと聞いたときに武部先生がどういう方だったのかを知った。
これらはたぶん父が買って、私も読んだはずなのだが、今となっては何も覚えていない。

古本屋さんとの約束は明日だったが、妹とも話して売るのはやめにした。家とともに朽ち果てるのもいいのかも知れない。
孫に読ませようと買い集めた絵本の類。うちの子どもたちは見向きもせず父をがっかりさせたが、きれいなまま残っている。ネコをテーマにした絵本を集めている。これだけは持ってかえってクリニックの待合室におくことにした。

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コメント

「人間として」で出てきました。
私の記憶が確かなら「人間として」は1970年3月末の創刊。創刊号を入手した日に「よど号ハイジャック事件」が起こりました。
父上はそのころ50歳代だったでしょうか。素敵な方だったのでしょうね。
学生時代に溜め込んだ本の多くは処分してしまいましたが、「人間として」は全巻揃いで屋根裏で眠っています。高橋和巳の全集は売ってしまったな。徹夜マージャンをしながら深夜放送で彼の死を知った時のことを想い起こしました。

投稿: くろうさぎ | 2005.08.17 23:42

父は学徒出陣で戦争に行って、国内で塹壕を掘っているうちに終戦となり大学に復学しています。大学を卒業してすぐに私立高校の英語教諭の職を得て、定年までそこに務めました。同僚には同じような経緯で教師をしていた河合隼雄氏がおられたようで、そういう方は次のステップに行かれた。父はよほど居心地がよかったのかその学校を動こうとせず、最後まで平の教諭でいました。高橋和巳氏は文学部の後輩ということで特に思いがあったようです。
バラを育てて、本を読んで、ジャイアンツを応援して、毎日決まった時間にきちんと帰ってくる。そういう生き方を見ていて、父のような人生は送りたくないというのが私のスタート地点かなと思ってます。70年頃はまだ40代半ばだったはずです。
どうせ読むのなら英語で読めと「共産党宣言」の英語版を買ってきたことがあります。もちろん読み(め)ませんでしたが、日本語版だって結局読んじゃあいない。

投稿: 院長 | 2005.08.18 23:46

お孫さんのために絵本を集めたとは素敵なお父様ですね。
それに河合隼雄氏と同僚であられたとはすごいですね。あの方は確か丹波篠山のご出身であられたような。
ネコをテーマにした絵本、拝見できるのを楽しみにしています。

投稿: 患者の母 | 2005.08.21 01:08

 先日NHK教育テレビで再放送された文化庁長官の《河合隼雄》氏のインタビュー番組、一時間、ずーと見入ってしまいました。今まで 全然知らなかった方なのですが、とても 良い番組でした。〔うつ〕〔カウンセリング〕についてのことだったと思います。ご本をたくさん書かれていますね。読んでみたいと思います。 河合隼雄氏は、中高の数学の木村維男先生と同じ町内にお住いなのですね。


 
 

投稿: miya | 2005.08.23 05:03

文化庁長官、河合隼雄氏が2年間数学の教鞭をとられたI高校と、数学を教えていただいた木村維男先生が現在講師をされているというI・N校とは 同じ学校(I・Nは女子校ですが)ですね。後で気が付きました。
 奈良のI高校は サッカーの強い学校としても有名ですね。
 現代の病気『うつ』に対する河合隼雄氏のカウンセリング方法、また『うつ』が作り出す文化論が あまりに良かったので記憶に残っています。

投稿: miya | 2005.08.23 09:01

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